各年度運動方針
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 平成24年度 運動方針

はじめに
 
私どもは、人権侵害の被害者を簡易・迅速・柔軟に救済する国家行政組織法の第3条委員会としての「人権委員会」の設置を求めており、平成14年3月に国会へ提出され、衆議院の解散から翌15年10月に廃案になった「人権擁護法案」の成立を求めて活動を続けてきたが、平成21年9月に政権の交代があり、民主党を中心とする政権になったことから、平成17年8月に国会へ提出し、廃案になった、私どもが「部落解放同盟国有化法案」と揶揄する「人権侵害救済法案」を、再度、国会へ提出するのではないかと危機感を持ち、「部落解放同盟国有化法案」にならぬよう3点の修正を求めて奔走した結果、法務省の政務三役名で、平成22年6月に「新たな人権救済機関の設置について」の中間報告が出され、平成23年8月には基本方針が出され、そして、12月には「人権委員会の設置等に関する検討中の法案の概要」が公表され、今年に入り、「人権委員会設置法案」(仮称)の骨子(案)が策定され、法案の国会への提出は秒読みになっている。
この「人権委員会設置法案」(仮称)の骨子(案)では、私どもが修正を求めた3点について、すべてを取り入れたことから、私どもが成立を求めた「人権擁護法案」に匹敵するものになっている。
法案の骨子(案)ができているということは、既に法案が策定されていると思われることから、早期に法案が国会へ提出され、成立されるよう、自由同和会の総力を挙げ、渾身の力を傾注するものである。
また、障がい者の人権確立については、国連が平成18年12月に「障がい者権利条約」を採択し、日本も平成19年9月に署名を行っており、平成26年末までの締結に向け条件整備を進めているが、平成16年6月の改正に続き、昨年7月に「障がい者基本法」の改正案が成立し、8月に公布・施行された。
その改正では、障がい者の定義が見直され、発達障がいや難病及び慢性疾患なども加えられるとともに、新たに「差別の禁止」も条文に明記された。
そして、ノーマライゼーション(共生社会)の観点からインクルーシブ教育(特定の個人・集団を排除せず学習活動への参加を平等に保障する)も、明確に位置づけられたことで、地域の学校へ就学し易くなる。
平成24年度までの「障がい者基本計画」の策定については、市町村も平成19年4月からは義務化になり、ほとんどの自治体で策定されたが、その計画を推進する部局を横断する推進体制の設置については、平成22年3月末で都道府県70.2%、指定都市で55.6%、市町村では28.3%、になっている。推進体制が整備されなければ計画倒れになることが予想されることから、推進体制の整備と計画の実施を都道府県と市町村に求めていき、共生社会を目指す。
なお、この「障がい者基本法」の改正に先立つ6月には、「障がい者虐待の防止、障がい者の養護者に対する支援等に関する法律」が成立し、本年の10月から施行されるが、虐待行為者の範囲を、養護者と障がい者福祉施設の従事者及び障がい者を雇用する事業主としており、あまりにも限定的で不十分なため、虐待の温床になっている病院や学校を加えるよう政府に働きかけるとともに、都道府県では「障がい者権利擁護センター」を、市町村では「障がい者虐待防止センター」の設置が定められているので、前記の「障がい者基本計画」を推進する、関係部局を横断する推進体制の整備と併せて、その設置を都道府県と市町村に働きかける。
また、平成23年6月現在での障がい者の雇用については、法定雇用率2.1%が適用される国、都道府県、市町村では、国は雇用障がい者数6,869人で2.24%、都道府県は雇用障がい者数7,805人で2.39%、市町村は2万3,363人で2.23%になっており、法定雇用率2.0%が適用される都道府県教育委員会の雇用障がい者数は1万2,154人で1.77%になっている。
一方、民間企業の場合は、従業者56名以上が対象で法定雇用率は1.8%が適用されるが、雇用障がい者数は36万6,199人で1.65%になり、法定雇用率を達成している企業の割合は45.3%でしかなく、一層の障がい者の雇用促進を企業に要請していく。
一方、女性の人権については、平成13年10月から施行された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV法)によって、平成14年4月からは「配偶者暴力相談支援センター」が各都道府県に設置され、業務を開始しており、平成19年7月の改正により、市町村にも配偶者暴力相談支援センターの設置が努力義務となったが、ほとんどの市町村は設置していないことから、その設置を市町村に求めていく。(平成23年1月現在、全国193施設で、その内市町村が設置する施設は22施設)
なお、この支援センターへの相談件数は年々増加しており、平成21年度は7万2,792件で、平成22年に警察が対応したものでも3万3,852件になっている。
また、これまで身体に対する暴力を受けたものに限り、保護命令を申し立てることができたのに対して、平成20年1月からは生命・身体に対する脅迫を受けた者についても、身体に対する暴力によりその生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きい場合には、保護命令を発することができることとなったほか、被害者への接近禁止命令の実効性を確保するため、接近禁止命令の発令されている間について、被害者の親族等への接近禁止命令も発することとされ、さらに、被害者への面会の要求や無言・夜間の電話等を禁止する電話等禁止命令も新設されたことで、平成22年では3,095件の申し立てがされ、2,434件について保護命令が発令された。
よって、少しでも危害を受ける可能性がある場合は、積極的に保護命令を活用していく。今後もDV被害者の増加が予想されるが、緊急な避難場所としてのシェルター(一時避難所)が不足しているので早急に設置するよう市町村に求めていく。
1. 住環境整備
 


住環境整備については、近隣地域との差異がないかを点検しつつも、高齢者・障がい者・妊娠している女性・子どもなど、ハンディキャップがある人たちが自由に社会に参加できる活力ある地域にするため、バリアフリーは当然のこととして、ユニバーサルデザインの用具をも活用する「人権のまちづくり」を視野に入れた取り組みを展開し、ノーマライゼーションを達成する。
バリアフリーの基準としては、介助がない車イスでどこへでも自由に、安心・安全・快適に移動できるものとする。
バリアフリーについては、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の促進に関する法律」(通称、ハートビル法)と「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(通称、交通バリアフリー法)を統合した新法「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称、バリアフリー新法)が、施行されているので、この「バリアフリー新法」を積極的に活用してバリアフリーの建築物を増やしていく。

老朽化した改良住宅・公営住宅の建替えを行う際については、定期借地権などを考慮しつつも、払い下げを積極的に求めて、これを機会に「人権のまちづくり」を具現化する総合計画の策定を市町村に求めていく。
改良住宅・公営住宅の空き家がある場合には、混住化を促進するためにも、一般公募制度を活用し、また、若年層の流入を促すために、就学前の子どもを持つ世帯とか妊婦については優先入居や割引の導入などの工夫を凝らして空き家をなくしていくとともに、高齢者の孤立死を防止する手立てを講じるよう、市町村に要求していく。なお、公営・改良住宅の入居者の選定や管理を、未だに地区の自治会や同和運動団体の役員に任せていることは、不正行為や混住化を妨げる温床になることから、公営・改良住宅の管理・運営を市町村が行うよう、市町村に強く要請していく。
批判の対称になっている改良住宅・公営住宅の家賃については、応能応益制度を取り入れ、暫時、見直しを進めていくことになっているが、応能応益制度を取り入れていない市町村には、早急に制度を取り入れ、家賃の見直しをするよう要求していくとともに、家賃の滞納を市町村と協議しながら早急に改善していく。
地域の拠点である隣保館については、運営費の削減や廃止をしたいとの声が聞かれるようになってきた。
これは、隣保館が部落解放同盟の事務所に使われ、公の施設になっておらず、稼働率が低いことにも起因する。周辺地域との交流事業を活発に行っている館や広く市民が利用している館などにはそのような声は聞こえてこない。
同和地区住民だけの館とか、同和運動団体が勝ち取った施設という考えは、同和地区を特化するだけで、差別の固定化に繋がり、部落解放同盟に甘えを許すだけで、市民の理解を得ることは困難であろう。
公の施設であれば広く市民が利用できる施設にすることは当然であり、広く市民が利用することで交流が生れ、また、同和対策で住環境が改善された同和地区を眼にすることで、古い同和地区のイメージを払拭させ、差別観を変えることにもなるので、広く市民が利用できるよう、厚労省の改修費補助を積極的に活用してバリアフリー化をもすすめていく。
なお、隣保館が廃止される場合には、指定管理者制度や民間委託などを活用できないかを検討しつつも、廃止された場合には支部の役員が同和地区と行政とのパイプ役を担う、地区の世話役を積極的に務めることにする。


2. 産業基盤の確立と就労対策
 
同和関係事業者は零細で、かつ、建築・土木関係業者が極めて多いという特定の業種に偏った特有性をもっているので、公共事業が年々減少していくこのような状況で基盤を確立することは非常に困難ではあるが、合理化や近代化を促進するとともに、生き残りのため共同化や協業化を進めていく。
業種転換する場合には、政府が中小・零細業者向けセーフティーネットとして実施している各種融資制度の有効活用や各省庁のホームページで最新の情報等を有効利用するとともに、都府県や市町村と協議しながら、きめ細かな指導をしていく。
未就労者に関しては、ハローワークを最大限活用するとともに、規制の緩和により都道府県も就労の斡旋ができるようになったことと、現在、様々な雇用対策が実施されているので都道府県と連携を図り、未就労をなくしていく。
また、専門性を取得するために職業訓練や研修・講座などを有効活用し、就労を確保していく。特に、世界でも類のない高齢化社会に進んでいることで、介護福祉士やホームヘルパーが不足しているため、求人の需要が非常に高くなっていることから資格の取得を奨励していく。
農林漁業者については、付加価値の高いものに移行するとともに、ブランド化を目指し、インターネットを活用して消費者との直販や販売店との直取引など販路の拡大を図っていく。このことは、畜産、園芸でも同様であり、漁業については、養殖なども検討していく。
なお、本格的に導入された「指定管理者制度」では、すべての公共施設を指定管理者に管理をさせることになっているので、隣保館なども対象になることから、各都府県本部で設置しているNPO法人の実情に合った公共施設の指定管理者になり、雇用の促進ができるよう、都道府県・市町村と協議していく。
いずれにしても、最新の情報を得るため中央本部は各省庁と、都府県本部は都府県と緊密な連携を図り、会員に最新の情報の伝達や相談を行うため、都府県本部内に相談業務を確立していく。
また、就職差別をなくし、安定した雇用を確保するため、厚生労働省が100名以上の従業者を有する企業に設置を求めている「公正採用選考人権啓発推進員」との連携を深めていくと同時に、障がい者の雇用をも促進するため、法定雇用率(常用労働者が56人以上の民間企業は1.8%)を下回る企業については、特に積極的に雇用するよう求めていくが、抜本的に就職差別をなくすため、ILO第111号条約の「雇用及び職業における差別に関する条約」を批准し、国内法を整備するよう厚生労働省に求めていく。

3.教育・啓発
 
教育・啓発については、既に「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が制定されており、基本計画も策定実施されているので、この法律を有効活用し、すべての都道府県、すべての市町村に、この基本計画の策定と実施を強く求めていく。
また、基本計画には企業の役割も明記されていることから、厚生労働省が100名以上の従業員を有する企業に設置を求めている「公正採用選考人権啓発推進員」との連携を深め、企業内の人権研修の充実に努めていくとともに、未設置の企業には、推進員の設置を求めていく。
高等学校の無償化で授業料は払わなくても済むようになったが、入学金や教材費、或いは、交通費までもが無料になるわけではない。特に私立については、世帯の年収350万未満は1.5倍、250万円未満は2倍が支払われるが、高額な入学金や授業料・教材費が必要な学校も存在することから、都道府県が実施する高等学校等奨学資金制度の一層の拡充を求めていくと同時に、これを機会に各種学校についても、対象に加えるよう要請していく。
大学・短期大学の奨学金は、独立行政法人日本学生支援機構や都道府県でも貸出を行っており、いずれも所得制限があるものの、現在では40%を超える学生が利用している。
日本学生支援機構の奨学金は、学力要件のある第1種(無利息)と学力要件の緩い第2種(利息付)とがあり、第2種の場合は毎月貸与する金額が、3万円・5万円・8万円・10万円・12万円と選択できるようになった。また、入学時特別増額貸与奨学金も、10万円・20万円・30万円・40万円・50万円と、入学の時に必要な資金も借りることができる。
これら奨学資金制度を活用し、大学・短期大学の進学率の向上を図っていく。
また、「障がい者基本法」が改正され、インクルーシブ教育が明記されたことで、すべての学校がバリアフリー化され、車イスでも通学できるよう、文部科学省により一層の促進を求めていくと同時に、児童・生徒の人権を侵害する教師の差別言動が少なからず発生していることから、教職員に対する人権研修の徹底をも求めていく。
今後、小・中学校では、地域に開かれた学校を目指すとして、学校評議員制度など保護者が学校運営に直接関与できるようになるので、積極的に関与していく。
平成20年3月に「人権教育の指導方法の在り方について」(第3次とりまとめ)が、平成21年10月には「人権教育の推進に関する取組状況の調査結果について」が文部科学省でまとめられ、各学校に配布されていることから、その実施を求めていくが、その折には、カリキュラムには最大限の関心を持ち、人権教育が計画的に実施されるよう働きかける。
また、導入することに賛否が分かれ、現在では少し後退している学校選択制度については、同和関係者が多数在籍する学校を敬遠するなど、解決しつつある同和問題を逆行させる可能性と、これまでの学校と地域の一体性が瓦解し、児童生徒が減少する地域は崩壊する可能性もあることから、導入には断固として反対していく。
なお、近年各地で始められた小・中一貫教育については、少子化が契機になっており、一つの中学校と複数の小学校を一つのブロックとして、9年間のカリキュラムでの教育や教師の相互協力が中心になっているが、特に、都市部の同和地区に顕著になっている同和地区からの流出による沈滞化を防止する目的で、同和関係者が多数在籍する学校を、一つの学校に小・中学生が通学する、特色ある施設一体型の小・中一貫校として、混住化と交流を促すことで同和問題の解決に繋がることから、施設一体型の小・中一貫校の設立を求めていく。

4.人権侵害の処理及び被害者の救済
 
国家行政組織法の第3条委員会としての「人権委員会」が創設されるまでは、平成15年の3月に20年ぶりに改正された「人権侵犯事件調査処理規程」での対応になるが、差別での泣き寝入りは絶対にさせないとの強い気持ちで、「人権侵犯事件調査処理規程」を有効に活用して救済を図っていく。
また、最近、部落解放同盟が部落地名総鑑を発見したと騒いでいるが、高度に発展しているインターネット社会と、同和対策事業で同和地区が以前の面影を残さないほど環境整備が図られた地域、まして混住化が進んだ地域の現状を勘案すれば、部落地名総鑑の持つ意味が以前ほど重大ではなく、当然、取扱についても違いが出てくると思われる。

同和対策事業が実施される前の劣悪な環境の同和地区を見れば差別の助長に繋がったが、現在の同和地区を眼にしても差別心は芽生えないであろう。
なおかつ、同和問題を少し勉強すれば同和地区には隣保館や改良住宅が建設されていることが分かり、インターネットで県や市町村のホームページで隣保館や改良住宅を検索すれば、同和地区の所在はすぐに判明するし、航空写真や衛星写真で同和地区全体を観ることもできる。
同和地区に入れば、同和問題を解決するための看板やポスターが目に付くし、人権週間になれば隣保館などに垂れ幕や横断幕などが掲げられ、同和地区であることを知らせている。
また、隣保館が行っている交流事業に参加する人達もすべて知ることになる。
したがって、同和地区の所在をあえて公開する必要はないが、部落地名総鑑を発見しても、差別の助長になると大騒ぎするのではなく、淡々と処理すればいいことで、未だに差別があることの根拠にすることは差別の現状を見誤る危険な所業といわざるを得ない。
同和地区に住む人達を差別しようとする悪意を持った確信犯的な人は絶対になくならない。そのような差別を好む者が部落地名総鑑を作成してインターネットに流すなど悪用した場合には、毅然として対処することは当然であるが、今や混住化が進み半数以上は同和関係者以外の人達であることを広報することのほうが部落地名総鑑を無意味にする近道ではないだろうか。
近年、商品などの違いを鮮明にするために差別化という表現が巷に氾濫しているが、区別をあえて差別と表現しているに過ぎず、このような風潮から最近では差別と区別の違いが曖昧で明確ではなくなっている。
また、平成5年の総務庁の同和地区実態調査では、混住化が進み同和地区内の同和関係者は41.4%と少数になっていたことを鑑みれば、現在では同和地区内の公営住宅の一般開放から、一層混住が促進されていることが思料される。同和関係者が少数の地区を同和地区とか同和地域、或いは、被差別部落と呼称してもいいのだろうか。
このような中、部落解放同盟は、同和地区のことを「被差別部落」同和地区に居住する人や、かつて同和地区に居住していた人を「部落民」と呼称することを一昨年の全国大会で決めた。
このことは、同和地区の固定化と同和地区内住民を混乱させるとともに、分断化につながる。
今回の決定は、「被差別部落の解放」とは逆行し、融和を妨げるものであり、単に運動側の都合だけであると言わざるを得ない。
私どもは、「被差別部落」の一日も早い解放、融和との観点から、同和地区・被差別部落の新たな呼称と同和地区出身者・部落出身者という言い方についても検討を始めているが、当面は「同和問題」「同和地区」「同和関係者」と呼称を統一し、差別については「同和問題に関する差別」とする。
また、国家行政組織法の第3条委員会としての「人権委員会」の創設が目前になっていることから、差別の定義を明確にすることにも、早急に取り組みたい。

 
最後に
 

これからの運動は、行政依存の体質から脱皮し、借りたものは返し、支払う義務があるものは支払い、これまでのような横暴・横着は許されるものではない。
特に関西で多く発生している部落解放同盟の関係者による不祥事によって、団体への嫌悪感が増し、同和地区を忌避する傾向が強まっていることから、同和地区からも団体不要論が出始めている。
本気で差別を解消していくには、被害者意識を振りかざすのではなく、差別される要因が少しでもわれわれの側にあるのなら改善していく努力が求められる。
そして、部落解放同盟に迎合するがごとき、いつまでも、「部落差別は、減少しつつも未だに根深く厳しい」という内容の啓発が行政と部落解放同盟によって行われているが、このことは、運動団体で言えば運動の成果がなかったことを意味し、行政の側で言えば、今まで自らが行ってきた啓発活動に効果がなかったと言っていることに等しく、これまで無駄なことをやってきたのかと問いたい。
今流行りの費用対効果からすればゼロということになるが、違うはずで、昭和44年からの同和対策特別措置法施行から40年の歳月は、時代の変遷とともに、差別の実態は大きく変貌している。
心理的差別を生む土壌であった、差別による貧困によって、不良住宅が立ち並ぶスラム化した同和地区は、今は見当たらず、同和対策審議会答申でいう「心理的差別と実態的差別とは相互に因果関係を保ち相互に作用しあっている」という相関関係はなくなり、一方で、人権教育・啓発により心理的差別も大きく改善されてきている。
以前のような、結婚の約束をしながら結婚を破棄する悲惨な差別も大きく減少し、何らかのトラブルはあるものの、結婚に至るケースが大半であるという事実。就職差別も皆無に近くなっている事実。これらが大きく改善された証左である。
よって、これら差別の実態に即した内容の人権啓発や人権教育を行うことが、差別解消のカギを握るものと思われる。
ところが、行政や部落解放同盟は「部落差別は、未だに根深く厳しい」と差別を強調することから、それを聞く市民は「やっぱり未だに差別は厳しいのだ」と、現状とは違った誤ったメッセージを受け取ることになる。
「今や同和地区は、一般地区となんら変わらず、ましてや同和問題に関する差別は明らかに減少し、同和問題は解決されつつある」との啓発を行い、同和問題は解決しつつあるという空気を醸し出せば、市民も「ああ、やっぱりもう同和問題に関する差別は少なくなっているのだ」と思い、結婚についてのトラブルも減少するであろう。
このことを実行するには、部落解放同盟の激しい抵抗が予想されるが、その抵抗を排除するには、ベールに包まれ人権対策との名称の基で実施されている同和対策関係のすべての情報を公開するとともに、同和問題に関する差別事象の件数と内容も公開することである。
ごくわずかでしかない同和問題に関する差別の件数や結婚・就職での深刻で重大な差別が明らかに減少していることを公表し、市民に知らしめれば、部落解放同盟の主張が如何に根拠のないものであることが判明し、市民も部落解放同盟のエゴ丸出しの行動を許さなくなるであろう。
米国の大統領選挙で、黒人の解放運動の女性運動家は、これまでは「未だにこんなに差別がある、こんなに格差が残っている」というネガティブな内容での運動をしてきたが、黒人が大統領になるような時代になったことから、「こんなに差別が減少しきている、これだけ格差が縮まってきた」というポジティブな運動にチェンジしていくと話していた。同和問題でも同じことであろう。
現在行われている人権教育・啓発の内容は、現状の差別の実態とは懸け離れた部落解放同盟の延命に手を貸すことにしかなっていないことに、部落解放同盟の良識派の中からも「福岡での『自作自演』の『差別事件』は、運動の水準が『現況』の様である限り繰り返されない保証は何もない」と運動の在り方に疑問を呈し、警鐘を鳴らしている。
先般、障がい者で作家の乙武洋匡さんは、自身が生まれつき両腕両脚がないにも係わらず、或る対談で、「人によって違う」と前置きしながらも、「今の時代は気を使いすぎ。
ある企業の研修で「『(移動の手段の)足がない』とは言ってはいけない」と教えていることを例に挙げ、「それはやりすぎ」と持論を語ったとし、自身のツイターでは「究極のバリアフリーというのは、障がいをネタに笑える社会になること」と強調し、「(サッカー観戦をしていて)『手に汗握る』と言われて、『握る手が無いよ』と言えて、それに引かずに『本当だ、手がない』と(笑って)言える」社会を本来あるべき「自然な」姿ではないかと提言していた。との記事に接し、これは同和問題でも同様で、部落解放同盟がこのような境地になれば解決は早くなると思われるが、現状では無いもの強請りになることから、私どもは、実情にそぐわない内容の人権教育・啓発から一日も早く脱却させ、差別の現状に即した、あらたな人権教育・啓発の内容が確立され、ほんとうの意味で同和問題の解決が図れるよう継続的に運動を展開する。
これらのことは、既に、昭和62年3月に総務庁地域改善対策室が策定・公表した「地域改善対策啓発指針」(本大会資料の参考資料を参照)で指摘していることだが、その当時は時期尚早として運動に取り入れることはしなかった。
しかし、同和問題を取り巻く現状は、この啓発指針を取り入れる環境になっていることを示していることから、この啓発指針の具現化を図る取り組みを始める。
そして、今年度からの新たな取り組みとして、地震や津波、台風や豪雨及び豪雪などの自然災害での被災者を、迅速かつ機敏に支援・救済できる組織として、被災者サポート隊を、青年部を中心に100名規模で設立し、積極的にボランティア活動を行うことによる社会貢献にも努めるものとする。

 
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